Bekanbeushi River 5
Frozen River Walk, Solo
凍てついた川と湿原を歩く、単独
ホームグラウンドの別寒辺牛川では、すでに春と秋の二つの季節を体験しているのだが、地元で別寒辺牛川系の学芸員をされている方から、一番寒くなる二月中旬には、時に川が全面凍結することがあるとの話を聞いた。なんとカヤックを使わずとも、湿原の奥深くへ歩いて行けるのである。
僕の場合、カヤックはあくまでも移動手段でしかない。手付かずの自然の奥底へと入っていける唯一の手段であるのがカヤックなので、愛用しているだけである。自らの足で入っていけるのであれば、ぜひチャレンジしなければならない。
全面凍結した川面は、しかしながら所々に黒々とした大きな穴があいており、覗けば滔々と水が流れていた。川一面を覆う氷はすり鉢状に凹んでおり、僅かな傾斜でも足が滑って川の中央へと体が滑り流されていくが、その中央にブラックホールのような穴が開いている。蟻地獄そのものだ。その穴にいったん落ちてしまえば、水に流され氷に覆われたトンネル内に引きずり込まれて、二度と空気を吸うことができないのは確実だ。恐ろしい穴である。
厳冬期の湿原の寒さは厳しい。原生林を透かして見える太陽が地平線の下へと沈むと、途端に気温が15度ぐらい、ストンと落ちる。そして朝日が昇るまで宇宙へと熱を放散する一方なので、温度は落ち続けるだけだ。最低気温はマイナス25度を記録した。テントを張るために、どうしても分厚い手袋を脱がなければならない時があるのだが、素手を空気にさらすと、十秒もたたないうちにヤバいぞという感覚を感じる。
雪に覆いつくされ凍てついた湿原は、何処までも静かで、音で空間を感じる。丹頂鶴の一声で湿原全体を感じ取る。人間は人間が作り出す喧噪を逃れて自然の奥深く静かな場所へと行けば、耳で空間の広がりを見ることができるのだ。
厳冬期の湿原。そこには宇宙がある。
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